2018年1月23日火曜日

いい音するじゃないですか

コミティアに向けて、オリジナル楽曲を作る日々ですが
珍しく、エレピの音が欲しくなりまして(El Piano)
いろいろと物色しておりました。

いつものOmnisphereを使っていますが
最近作っているのは「日本のギャルゲー的なイメージの曲」

海外製の音源やリズムループ素材は
使いづらい事が多いですがその理由について考えていました。

自分が作っているのはゲームで使われるための音楽ですが
やはり、ゲームの音楽とテレビ・アニメなどでの劇伴は大きく異る点があります。
それは、音色の質にあります。

音質、という表現にしていないのは誤解を招くからです。
音色の質、というのはこの場合、大変難しいニュアンスなのですが
デフォルメされている音か否か、という事。

音のデフォルメ、とはどういうことかというと
具体的に言うと、ハード音源はデフォルメされている音だと言えるでしょう。
生音の存在感とは異なり、作られた音。
リアリティーよりも使いやすさを優先させたサウンドデザイン。
サウンドエンジニアが苦心して作った音。

生音をサンプルバックして鳴らす現代のソフトシンセとは異なり
いかにシンセサイズするかという所にエネルギーを注いだ音。

ぶっちゃけると、90年台のシンセの音。

以前、私は強く悩んでおりました。
ハードシンセの音と、生音系のソフトシンセの音とを比較し
確かに、生音系のVSTiの方がいい音がする事はわかっていたのですが
どうにも、ハードシンセの方が良いような気がしてならなかったのです。
それは、今まで慣れ親しんだ音に対しての執着である、と
意図的に遠ざけて来ました。

なので、100%VSTiで。生音のサンプルバック系の音を多用してきました。

しかし、一昨年、聖剣伝説2、バトルオブブレードなどの音楽を担当されている
菊田裕樹氏にこの疑問をぶつけてみたのです。

菊田氏の音楽は、スーパーファミコン「聖剣伝説2」はあまりにも有名です。
ふつーに聞けるサウンド。それを、あのスーパーファミコンのガッチガチの制約のなかでやってのけることの、途方もない労力と努力と工夫の結晶は、実はあまり知られていません。実際に仕事でスーパーファミコンの音で音楽を制作する機会があった私は、その、先が全く見えない試行錯誤を繰り返した先人たちの苦労を少しだけ体感できたわけですが、一曲作るのに音色を整えるだけでも三週間かかったんです。

何故あんなにいい音なのか。良いと感じるのか。
生音とはほど遠い音ですが、強くその楽器を感じさせる力強い存在感。

菊田氏の回答は明快でした。

デザインされた音だから。

生楽器の音、とは、楽器自体にサウンド・デザインが施されています。
生楽器がデザインされていない、というわけではありませんが

ハードシンセの音は、そこからさらにデザインされている。
シンボル化されている。
人間が、例えばバイオリンに対して期待し、認識する音の要素を
ぎゅっと凝縮し、伝わりやすく、わかりやすく再構築しなおした音。
偽物なのに、本物よりも本物を感じやすくする、というデザイン。

そして、もう一つの要素は「音の並び」
バイオリンに向いている旋律。
ギターに向いているアルペジオ。
笛に向いている動き。
それらと、デザインされた音が組み合わさった時
いい音楽が出来る。

一流の生楽器の演奏家は、曲によって音をデザインし直すという概念があります。
よく考えれば当然ですが、曲によって音の質を変えるのは当たり前です。
ギターは良い例です。エフェクターの力を使って音をデザインします。
バイオリンもフルートも、一流の人たちは吹き方で、弾き方で、デザインするのです。

ハードシンセはその「デザインされた音」であり
生音の存在感を超える事があります。
私は自分の価値観で測らずに
「生音から収録した音なのから、良い音なはずだ」
という概念に縛られていたようです。
でも私の中の何かが常に違和感を訴えていたため、ずっと疑問に思っていたわけです。

最終的に「これ、いい音するじゃないですか」で良かったわけです。

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