2018年1月26日金曜日

「降りてくる」という現象について 1

音楽家がよく使う言葉です。

「降りてくる」

これは音楽のメロディーや動機、歌詞などが
何の前触れもなく脳裏に浮かぶ現象です。
並の音楽家なら一度や二度は経験したことがあるでしょう。

この「降りてくる」という現象が脳科学的になんと呼ばれているか正確にはわかりませんが、一種の「ひらめき」みたいなものなのでしょう。

この「ひらめき」とは意図的に起こせる現象ではない。
…というのが通説ですが、本当にそうでしょうか?

茂木健一郎「すべては音楽から生まれる」
久石譲 「感動をつくれますか?」

この二冊の新書を熟読し今でも時々読み返すのですが
特に久石さんの「音楽家としての生き方」には感銘を受け
今その生き方を実践しているところです。

脳科学者としての茂木健一郎先生の、音楽に対する姿勢は大変素晴らしく、科学者の視点が面白く、これらの2つの本と、数少ない作曲家に関する資料を統合した結果、この「ひらめき」という意図的には引き起こせないと思える現象を「意図的に起こす」という事が可能であると私は信じています。

DTMで作曲する私は、常にパソコンの前に向います。
しかし、パソコンの前でこの「ひらめき」が起こった事は一度もない。
常に、それ以外の環境で起こることがわかっています。

偉大なるベートーベン先生も、メロディーの動機が浮かぶのは
もっぱら「入浴中だった」という証言が、メイドによってされています。
朝起きると入浴し、大声で歌い、良いのが浮かぶとだだだだっと半裸で走ってきてピアノに向かい、一心不乱に楽譜を書き、おかげでいい曲が書けたが代償として風邪をひいた、という手紙を友人に宛てています。

スティーブ・ジョブズは毎日散歩を欠かせなかったといいます。その散歩中に浮かんだアイデアが、ヒット商品の殆どの割合を占めているとも云います。

私は、というと、入浴中にメロディーや全体像が降りてくる、という頻度が大変高く、また、睡眠直前。布団に入ってさー寝るぞというその瞬間が最も降りてきやすい。
散歩中もそうですが、残念ながら散歩中は書き留めたりできません。歌うわけにもいきません。なので、散歩中に浮かぶと、それを書き留められない分精神が病むので、散歩中はできるだけ「浮かばないように」しています。例えば音楽を聞きながら歩くとかして、逆に「ひらめき」が起こらないようにしています。

これらからわかってくることは、ひらめきとは、目的の行動以外の時に起こるということです。つまり、音楽の事を考えている時は、音楽は降りてこない。

人間の脳は大変興味深い。なにせ、論理思考の先にひらめきは無いのです。おそらくこれが「才能」とか「感性」と呼ばれる部分なのでしょうが、そんな魔法みたいなスキルはありません。きっと何か理論で説明できるはずです。

このひらめきを意図的に、毎日、常に起こせる、という事は、毎日意図的に奇跡を起こせると言うことです。音楽家としては夢のような毎日でしょう。降りてくるのをただひたすら待つ、という人も多いでしょうが、これが何故このタイミングで、よりによってこんな時に、という経験がある方も多いでしょう。全くその通りで、「よりによってこんな時」を毎日起こせばいいだけのことです。

音楽を作ろう、と思った時にまず真っ先にパソコンに向かったのでは、何も生み出せません。雰囲気とノリだけで作り始め、形に出来たとしても何の感動も生みません。そういう「量産品」も必要な世の中なので、それ自体もクリエイターとして必要なスキルです。しかしそればかりやっていると、あっという間にアイデアの枯渇を生みます。行き詰まり、何か新しいものを入れないと前に進めなくなります。新しい音を手に入れたりプラグインに手を出したりし、「新しいおもちゃ」で遊びます。新しいおもちゃは実験的な生産物は生まれるかもしれませんがそう長くは遊べません。飽きて、また行き詰まって、新しいおもちゃを求めます。

モチベーションの維持に、「新しいものを買う」という事を繰り返していると、そのうち「新しいものを買ってもすぐに飽きる」という事すらも覚えてしまいます。となると八方塞がりになります。

音楽を作ろう、とした時に、真っ先に楽器を持つ人も多いでしょう。作曲しようと思ってるんだから当然だろう、と思う人が殆どだと思いますが、前述の通り、ひらめきとは目的とは無関係な行動の時に起こるものです。つまり、楽器を持った時点でひらめきは起こらない。実に過酷な真実です。

ひらめきは、音楽行動以外で起こる。食事中、入浴中、読書中、散策中…、その際中に浮かんだアイデアを、憶えて帰るのは大変困難です。メモが必要です、記録が必要です。今はスマホがあるので録音も可能ですが、最も便利なのは「楽譜」です。
楽譜が読み書きできる、という重要性は、ココにこそあります。

では、降りてくる、を意図的に生み出すために、私達が出来ること、について次回触れることにします。ただ作ればいいだけじゃない。いい曲を作るために、作曲家として日々心がけたい事、です。

久石譲「感動をつくれますか?」は名著です。


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